噂 1
外の光の届かない洞窟で暮らす人たちがまだ居た頃。
美しい旅人が洞窟にきた。
人々は、外の話を聞かせてくれ。と、せがんだ。
美しい旅人は、何も言わずに拳の大きさくらいの茶色い種を取り出した。
人々が見守る中、美しい旅人は、薄暗い地にそれを置いた。
「・・・・・・・・!!!」
洞窟の人たちに聞き取れないような言葉をとても綺麗な音で詠った。
洞窟にその音が反響して、さらに大きくなる。
幾度も幾度も反響してそれは、音から振動に変わった。
空気がビリビリと揺れ、天井からは砂埃が落ちる。
洞窟の人たちが止めてくれと言っても美しい旅人はまだ詠い続けた。
細かい小石が美しい旅人の上にたくさん降った。
そして、外の光が中へ入ってきた。
美しい旅人の周りを光が覆った。
そして、小石に埋もれた種に異変が起きた。
そこから緑の芽が出たのだ。
反響は消えた。
振動も消えた。
洞窟の中には、静かに美しい旅人の歌が響いた。
緑の芽は、歌に合わせるように成長した。
天井を破り、外へ突き抜けた。
緑の葉が生い茂り、巨木は子を成した。
その子がまた成長し、巨木と一つになる。
何本もの木が巨木と一体になった。
美しい旅人が歌を止めるとそこは、洞窟の中にぽっかりと開いた、外となった。
中心には巨木が生い茂り、地は緑が生える。
遥か高く手の届かない空が、天井に見える。
人々は驚き唖然とした。
美しい旅人が何も言わずに去っていくのを彼らは見守る事しか出来なかった。
これが、バーレイの東のドゥーマの谷に伝わる創街伝。